光のもとでⅡ
 膝のあたりで波がバシャンと飛沫を上げる。
「わっ――」
 顔に海水がかかってびっくりした。そんなことを何度か繰り返していると、
「翠葉ちゃん、飛沫が立つ向こう側まで行っちゃったほうが楽だよ」
「え……?」
 秋斗さんは数メートル先を指差した。けれども、そこまで行ける自信がすでにない。
 今は膝上のあたりで波がバシャバシャと飛沫を立てている。太ももまで浸かれば、飛沫は直接顔に向かって飛んでくるのだろう。
 そんな想像をすれば足が止まってしまう。そのとき、
「……ちょっと失礼」
「えっ、あのっ――」
 あっという間に秋斗さんに抱き上げられてしまった。
「秋斗さんっ、怖いから嫌ですっ。唯兄っ」
 唯兄に助けを求めたけれど、唯兄は少し考え、
「ま、秋斗さんが言うのも一理あるからあそこまで連れてってもらっちゃいなよ」
 あっさりと同意されてしまった。
 秋斗さんはずんずんと歩き、気づけば浜辺からは五メートル以上離れている。
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