光のもとでⅡ
「今日、何かあった?」
『えっ、どうしてっ!? 何もないよっ』
 ……絶対に嘘だろ。ここまで嘘をつけない人間も珍しい。
「その慌てっぷり、絶対おかしいだろ。それに、何もなければ電話なんてしてこないんじゃない?」
 翠が電話をかけてくるときはたいてい何かがあったとき。もしくは声が聞きたいとき。
 後者の場合なら、さっきの時点で通話を切っただろう。切らなかったということは、何かがあったのだ。それも、「何もない」と否定したくなる内容の出来事が。
 海水浴へ行ったメンバーでそんな出来事を起こせるのは秋兄しかいない。
「何があった? 秋兄が絡むこと?」
 ほぼほぼ確信を得た状態で尋ねると、
『……本当に、何もなかったの。ただ、私が個人的に気になることがあるだけ』
「気になることは?」
 翠は急に口を閉ざした。
 翠の「気になること」は実に厄介だ。いつだって突飛なことを考えてはひとり空回っていることも少なくない。
 電話をかけてきてくれて助かった。そんなものは、早いうちに芽を摘むにこしたことはない。
 どう話を聞きだそうか、と思っていると、
『ツカサ……』
「何?」
『……不安になること、ある?』
 思いもしないことを尋ねられ、今度は何を考え始めたのか、と頭を抱えたくなる。
 そんな思いは即座に捨て、もう少し建設的な会話になるよう努めてみる。
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