光のもとでⅡ
「息継ぎができないって、それ泳げたうちに入るの?」
『意地悪……』
 拗ねている様までありありと思い浮かべることができて、思わず声を立てて笑った。すると、
『笑った……』
「あ、悪い。翠が拗ねてるのが目に浮かんだ」
『違う。どうしてっ? どうして自然に笑っているときはいつも電話で、ツカサが目の前にいないのっ? ずるいっ』
「ずるいって言われても……」
 そんなのいつもたまたまなのだから、文句を言われても困るというもの。
『……会いたいな』
 しおらしい声に心が満たされる。
 自分も早く会いたいと思ってはいる。でも、素直になれない俺は現実しか口にしない。
「合宿始まってまだ五日目なんだけど」
『わかっているもの。あと九日は会えないのでしょう?』
 翠の声を聞きながら、もっと残念がってほしいと思ってしまう。でも、あまり意地悪をしすぎるといつか自分に返ってきそうだから、
「三十日、藤倉に帰ったらマンションに顔出す」
『うん……』
 この時点で少し違和感を覚えた。
 いつもなら、このくらい話せば「じゃぁ切るね」と言い出す。が、今日はまだその言葉が出てこない。
 もとより、電話が苦手な翠が、メールをすっ飛ばして電話をかけてくること自体にも違和感はあった。
 これは――。
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