光のもとでⅡ
 いつもとは少し違う緊張をまとい、コール音を聞いていると、
『はい』
 大好きな低く静かな声が耳に届く。
「ツカサ?」
『何』
「あのね、ひとつ約束をなかったことにしてもいいかな」
『……どの約束?』
「秋斗さんとふたりきりにならないっていう約束」
『…………』
「同じマンションにいると、やっぱり難しいの。傍から見ておかしいと思われるような行動になっちゃうの」
『…………』
「でもね、安心して? 不必要にふたりきりになることはないし、ふたりきりになっても何もないから。抱きしめられたりしない。キスなんてされない。だから、秋斗さんとの間に壁を作るの、なしにしてもいいかな?」
 ツカサはいいとも悪いとも言わずに無言を保つ。それは、「聞き入れられない」という意思の表れだろうか。
「……ツカサ?」
『……絶対に抱きしめられたりキスされないって言い切れるなら』
 少し前の私なら、こんなことであっても「ない」と断言することはできなかっただろう。でも、今なら断言できる。
「ツカサ、ありがとう」
 私はそう言って通話を切った。
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