光のもとでⅡ
 リビングでは父さんと母さんが翠にダンスのお手本を見せていた。翠はというと、まるで見惚れているふうで、そこから何かを学ぼうという姿勢はうかがえない。
 ダンスをやめた父さんが、
「御園生さん、次は御園生さんが踊るんですよ」
 翠は急にあたふたとし始める。
「翠葉ちゃんはもう少しリラックスして踊るくらいがいいかもしれないわね。相手が司だったら緊張しない?」
 母さんの言葉に席を立ち翠のもとへ移動すると、翠はひどく慌てていた。
 シュワシュワと音が聞こえてきそうなほど赤面している翠の手を取り、基本のホールド姿勢を作る。右手を肩甲骨に添えると、翠の肩がビク、と反応した。
 何をそんなに意識しているのか……。
 翠の赤面が自分に伝染しそうで、俺は翠のマイナス点をあげつらうことにした。
「翠、顎引いて視線上げて。腰が引けてるのもどうにかして。背筋はきれいに伸ばすこと。できることなら百合の花びらみたいに少し反るくらいがベスト」
 翠はあわあわしつつも指摘した点すべてを直していく。
 あとはそれをキープしたままステップを踏めばいいだけ。
 途中何度か休憩を挟み、一時間が経つ頃には基本のステップを踏めるくらいにはなっていた。
 これから紫苑祭まで、何度か練習をすれば当日困らない程度には踊れるようになるだろう。
 練習を終えて数分経つと、翠が貧血を起こした。顔が真っ白で唇まで白い。
 父さんが診察をしても診断は脳貧血。
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