光のもとでⅡ
「帰る。翠も早く休める日は早く休むように」
「うん。いつも遅くまでありがとう」
 席を立ちドアノブに手をかけたそのとき、クン、と後ろに引っ張られる感覚があった。肩越しに振り返ると、翠の右手が俺のシャツをつまんでいた。
「何?」
 翠は俯いたまま、
「……ぎゅってして?」
 願ってもない申し出にすぐさま応じる。
 もしかしたら翠も俺と同じ気持ちでいるのだろうか。
 そう思うと、嬉しい気持ちが抑えきれなかった。
「何、急に」なんて素っ気無い言葉を吐きながら、嬉しさを隠しきれた気はしない。
 翠からはどんな言葉が返ってくるのか……。
「なんとなく」かな、と思っていたら「スキンシップ」だった。
 これは意外な返答だ。
「……へぇ、スキンシップなら、翠の身体のどこに触れてもいい気がするんだけど」
 調子に乗って翠の背に指を滑らせると、翠は首を竦めるほどの反応を見せた。
 でも、その反応は緊張を示すものだとすぐに理解する。
「……嘘。ゲストルームでは何もしない。翠がしてほしいなら別だけど」
 腕を緩め翠の表情をうかがい見ると、翠は口をきつく引き結ぶ。
 その口の中にはどんな言葉が詰まっているのか。俺はその言葉を聞くことができるのか――。
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