光のもとでⅡ
 程なくして戻ってきた翠に、
「ダンスの練習、どうだった?」
 カップを差し出す翠の表情がぱっと花が咲いたように明るいものへと変わる。
「あのね、先日初めて佐野くんと踊ったの。今までツカサと踊っていたから身長差とか最初は慣れなかったのだけど、身長が近い分、少し踊りやすかったかも?」
 どうやら、俺の成長はまだ終わっていないらしい。
 四月の身体測定では身長が三センチ伸びて一八一センチになっていた。
「ふーん……さすがに身長に文句を言われても変えようがないんだけど」
「えっ!? そんなつもりで言ったわけじゃないよっ?」
 どうしたものかな。
 俺は翠が笑っているのも好きだけど、むくれた顔や焦って必死になっている顔も好きらしい。
 クスリと笑みを漏らすと、翠はむくれた顔で、
「もぅ……意地悪」
 愛しい生き物はカップに手を伸ばし口元へと引き寄せた。
 一口飲むと穏やかな表情に戻り、
「桃華さんや海斗くん、静音先輩にもとても褒めてもらえたの。ツカサに教えてもらって良かった。ありがとう」
 ふわりと笑うその様に、一瞬見惚れた。
「……ま、見られる程度には仕上げたつもりだけど、厳しく指導しようと何しようと、それを習得したのは翠だから、俺だけの力じゃない」
 このまま一緒にいるとキスをしたくなる。この腕に翠を抱きしめたくなる。
 そんな予感を覚え、約束を守るためにまだ熱いハーブティーを一気に飲み干した。
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