光のもとでⅡ
「……いつもどおり、かな。すこぶるいいわけでもないし、取り立ててどこが悪いわけでもない。でも、だいぶ涼しくなったから血圧は安定し始めてるよ」
 その証拠を見せるように携帯ディスプレイをツカサへ向けると、
「身体の痛みは?」
 新たな心配を口にされ、私は思わず苦笑を漏らす。
「痛みは少しだけ……。でも、ひどく痛むわけではないし、痛みが強くなったらお薬を追加で飲むこともできるから大丈夫」
「無理してまで競技に出るなよ?」
 最後の最後まで念を押すツカサに、出かける間際の蒼兄を思い出す。
 つい数分前、ゲストルームの玄関でまったく同じやり取りをしてきたばかりなのだ。
 続けて笑みを零す私に、
「何……」
「ううん、蒼兄みたいだな、と思って」
 ツカサはものすごく迷惑そうな表情で、
「俺がこうなったのって、今まで翠がきちんと自己申告してきていないことに原因があると思うんだけど」
「そこをつかれるとちょっと痛い。……でも、一年前よりは言うようになったでしょう? それに、体調だって一年前よりはだいぶ落ち着いていると思う。だから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
 ――「大丈夫だから」。
 そんな意味をこめてツカサの手を取ると、ツカサは顔を逸らしたものの、つないだ手には力をこめてくれた。
 言葉だけではなく、こんな些細な動作で意思の疎通ができることに幸せを感じながら、学校までの道のりを歩いた。
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