光のもとでⅡ
 自分たちに割り振られたフロアへ移動する途中、
「御園生ずっと黙ったままだけど、大丈夫?」
 佐野くんが心配そうな顔で私を見ていた。
 大丈夫……大丈夫、かな……? ううん、大丈夫じゃない気がする。
「ちょっと、気分が悪くなりそうなくらい混乱してるかも」
 人前で踊る緊張などすっかり鳴りを潜めてしまった。
 今は心の中で渦巻く感情をもてあましている状態だ。
「ね、それ……大丈夫なの? 大丈夫じゃないの?」
「大丈夫」とは言いがたい。でも、「大丈夫」で切り抜けたい思いはある。
「佐野くん、今、心の中がものすごくどろどろしたものでいっぱいなの。なんか、このままだと窒息しちゃいそうだから吐き出してもいいかな」
「いいよ、承る」
 私は二酸化炭素を吐き出し、新たに小さく息を吸う。
「私ね、自分がワルツに選ばれたとき、一年生の代表になるはずだった子のことをまったく考えなかったわけじゃないの。ワルツの選出って成績のいい人が自動的に任命される仕組みだったでしょう? それって、選出するしないじゃなくて、ダンスの評価だけで決定するはずのもので、そこに『姫』なんてイレギュラーなものが挙がっちゃったからこんなことになっているわけで……。決まったあとも気にはなっていて、一年生の代表になるはずだった子のところに話を訊きに行こうとは思っていたのだけど、気づいたらそんな時間がとれないほど忙しくなっちゃって、結局誰が代表になるはずだったのかも調べなければ、聞きに行くこともしなかった」
「……海斗から聞いた。生徒会の仕事と副団の仕事、大物の衣装製作を抱えたらそりゃ時間もないでしょ」
「うん……でも、そこでかまけることなく聞きに行っていたら、今の状況を招くことはなかったのかな、と思うわけで……」
「……御園生の名前が挙がったとき、風間先輩はちゃんとみんなの意見を確認した。間違いなく、組全体で話し合った結果の代表だよ」
「うん……そうなんだけど、私、少し浮ついていたの」
「は……?」
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