光のもとでⅡ
 風間先輩は谷崎さんのもとまで行き、
「これで納得できた?」
「……はい」
「じゃ、みんなの時間をもらったことに対して謝罪しようか? それから、御園生さんと佐野くんにもね」
「はい……」
 谷崎さんは目に涙を滲ませたまま身体の向きを変え、その場に集まる人たちに頭を下げた。
 その姿を見守っていると、頭を上げた谷崎さんと視線が合う。
 谷崎さんは唇をきつく引き結び、悔しさを目に湛えたまま走り出した。
 咄嗟にあとを追おうとしたら後ろから手を掴まれ、
「御園生っ」
「ごめん、走らないからっ」
「そうじゃないっ」
 え……?
 意味をわかりかねて佐野くんの顔を見ると、
「御園生が行ってどうするの?」
 どうする……?
「今御園生が行ったところで、谷崎さんはつらいだけじゃない?」
 その言葉は冷水のような効果があり、走り出そうとした勢いを殺ぐ力があった。
「意味、わかった?」
「……うん。考えなしに行動するところだった。止めてくれてありがとう……」
 そのやり取りを見ていた風間先輩が場を和ませるように、
「大丈夫だよ。パートナーの青木があとを追ったし、ほかにもフォロー要員はいるから」
 風間先輩は隣に立つ静音先輩を見やり、
「頼まれてくれるんだろ?」
「頼まれなくっても行くわよ。かわいい後輩だもの」
 静音先輩は私と佐野くんを交互に見て、
「佐野くんも御園生さんも、後輩が失礼なことを言ってごめんなさい。谷崎さん、今は無理でも後日謝りに行くと思うの。だから、そのときはよろしくね」
「「はい」」
 静音先輩の背中を見送ったあと、風間先輩は腕時計を見ながらぼやく。
「二十分のロス、ね。……ま、二十分で収拾ついたからいいことにしようかな。さて皆の衆よ、そろそろ練習に戻ってもらえるかな? 個人競技に出る人間はすぐに練習再開。ダンスメンバーはヒップホップ、創作ダンスの順で二十分ずつの練習。ワルツのメンバーは見学。はい、始めっ!」
 人はすぐに動き始め、体育館はあっという間にいつもの光景を取り戻した。
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