光のもとでⅡ
 ……翠、俺だって翠のこと知らないけど?
 兄さんの家に頻繁に来てるなんて初耳だ。
 それを言われたからといって俺が何をするでも何を言うでもない。でも、確かに「知っておきたい」という気持ちはある気がした。
 そこへ兄さんが戻ってきて、
「なんだ、結局置いちゃったのか。そんなんじゃ、新生児とか小児科は無理っぽそうだな」
 言いながら、自然な動作で煌を抱き上げる。
「……もともとそっち方面を専門にするつもりないし」
「あぁ、司は外科に行きたいんだっけ?」
「心臓外科には今でも興味あるけど、ほかにも循環器内科が気になってる」
「……紫さんの影響って感じじゃないな。翠葉ちゃんか」
「……悪い?」
「悪いとは言わないけど、かわいいなとは思った」
 俺は罰が悪く顔を背ける。
 去年のこの時期から、兄さんにはこの手の話でからかわれてばかりだ。
 たいていが図星で返す言葉に困る。
「……翠が頻繁に来てるって義姉さんに聞いた」
 話を逸らすために新たな話題を振ると、
「あぁ、ちょこちょこ来てくれてるよ。……って、知らなかったのか?」
「…………」
「……おまえ翠葉ちゃんと会話してる?」
 今そこをつかれるのは非常に痛い……。
 でも、タイミングがいいといったらいいのか……?
「あのさ、兄さんにもし付き合っている彼女がいたとして、大学受験のこと話す?」
「……は? 俺は結婚してるし大学受験なんて何年前の話だと思って――って、それ、今のおまえと翠葉ちゃんってこと?」
「……あのさ、たとえ話をするために『もし』って言葉を使ったんだけど」
「あー、はいはい。もし、ね。もし――ま、普通に考えてそんな話は世間話の延長でするだろ?」
「その世間話ってどこまで話すもの? 大学名と学部はともかく、受験日まで話す?」
「あのさ、『もし』の割に内容が細かすぎるんだけど」
「……別にいいだろ」
 兄さんはクスクスと笑いながら、
「わかったわかった、拗ねるなよ。もし、ね――そうだな、受験日も話すだろうな」
「なんで?」
 兄さんは面食らった顔をしていた。
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