全部、抱きしめて
あたしは不思議なくらいタケルが別れた本当の理由を冷静に受け止めていた。

普通、こいう時、少しくらい怒りがこみ上げてくるものなんだろうか?

だけど、あたしが考えていたのは全く別のことだった。

「直也には子供いなかったんだよね?」

独り言のように呟いていた。

「あー。直也さんって結婚してたんだよね? って、あんたそんなことも確かめもしないでつき合ってるの?」

紗江は目を丸くしている。
そんなに驚くようなことなの?

「知らない。離婚に至るまでの経緯とか深く聞いたことないし」

「で、直也さんには子供いそうな感じとかないの?」

「今のところはそいう素振りは見せないけど......」

もし、タケルにされたことを直也にされたら......?

そんな不安が過る。

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