恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②




そんな風に二人から馬鹿にされて、真琴は父親のことが少し可哀想になってくる。


「…でも、お義父さんの中には、その時代からの精神やノウハウが受け継がれているんですね」


と、慰めてみたけれど、その当時造っていたお酒は、ぶどう酒ではなかったはずだ…。

しかし、父親は少し目を潤ませて、真琴を見つめた。


「…真琴ちゃんは、優しいなぁ…。こんな可愛い娘を持てて、俺は本当に嬉しいっ!…そうだ。真琴ちゃんには、とっておきのあの酒を出してあげよう…!」


そう言って父親は立ち上がり、いそいそとその“酒”を探しに部屋を出て行く。

真琴は「お酒はもういいです」と言いたかったが、可哀想な父親に、その言葉はかけられなかった。



「でも、お父さんの言う通り。真琴ちゃんって、本当に可愛い。和彦が、私たちに紹介するのも待てずに結婚してしまったのも解る」


梅酒を片手に、今度は母親の方がニッコリと笑いかけてくれた。
真琴は照れてしまうのと恥ずかしいのとで、赤くなりながら目の前の梅酒をすすった。


「こんなに可愛い真琴ちゃんを、和彦のやつ、私たちに黙って独り占めするなんて…!けしからん奴だ!」


晶にはそんな風に言われてしまって…、真琴は恥ずかしいのを通り越して、気後れしてしまう。

ごく普通の自分のことを、こんなに「可愛い」と連呼する古庄家の人間の感覚が、真琴には理解しがたく、かなり変わってるとしか言いようがない。




その時、宴会をする居間の襖がスラリと開いた。




「けしからん奴で、悪かったな!」



そう言い放つ声と共に、そこにラグビーのトレーニングスーツを着た古庄が登場した。




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