恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②

 
 

「さあ、露天風呂に行っておいで、俺は後から鍵をかけて出るから」



古庄から優しく促されて、真琴は離れを出た。


甘い呪縛から解放されて、やっと大きく一息つくと、下駄を鳴らしながら露天風呂へと向かった。



木々の間を縫って続く、川沿いの露天風呂への小路には、数メートルおきに小さな明かりが置かれていた。
その灯りを辿って、川のせせらぎが聞こえてくると、小さな建物に到着した。


脱衣所で服を脱いで、露天風呂の方へと出てみる。
すると、今昇ってきたばかりの満月が、川とそのすぐ横の湯船の水面を照らし、キラキラと光ってまばゆいほどだった。


柔らかいお湯に体を浸し、夜の風を顔に感じる。

夜でも景色が楽しめるように、露天風呂の周りはライトアップされていて、周りの木々も鮮やかに照らし出されていた。


けれども、その綺麗な景色も、真琴の目には映っても心にまでは届いてこない。

それほど、真琴の胸は切なく疼き、その中に混とんとするものは深かった。



古庄がとても深く想ってくれているのは、身に沁みて解っている。


折々に言葉にしてくれる、真琴の体を貫くような古庄の想い。


その表現の通りに、古庄は抱きしめてキスをして……深い想いを行為として示したいと思っているはずだ。


それが恋人同士なら当然のことだ。
ましてや、夫婦なら。


古庄の想いに応える勇気がなく、もじもじとして態度をはっきりさせない自分が、真琴は嫌でたまらなかった。


だからこそ、あんな風に古庄に気を遣わせてしまう……。
古庄にあんなことまで言わせてしまう……。


いたわってくれているのだとは思うが、古庄の態度は宝物を大事にするというより、腫れ物に触るようだ。

そうさせているのは、誰でもない自分。
真琴はそれが、とても情けなかった。



せっかくの露天風呂だというのに、真琴は湯船の中でうつむいて、ただ自分の膝頭ばかりを見つめていた。



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