恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②


真琴は月から目を離し、その確かなものへと眼差しを向けた。


月の光を浴びて、空を見上げる古庄は、自身から光がこぼれ出ているかのようで、本当にこの世のものとは思えないほどだった。


視線を感じて月から目を移した古庄は、真琴を見つめ返した。


そのあまりにも深く穏やかな眼差しに、真琴の胸が甘く痺れて怯みそうになる。

真琴自身の中に込み上げてくる古庄への想いの大きさと深さに、心が圧し負けそうになる。


いつもこれに耐えかねて、逃げ出してしまう自分がいた。
けれども、今日は逃げたくなかった。

古庄に負けないほどの眼差しで、古庄を見上げる。



「真琴……」


つぶやくように、古庄が名前を呼んだ。


真琴は眼差しをそのままに、かすかに口角を上げてそれに応える。




「俺のことが、好きか…?」




それを訊かれて、真琴はハッと息を呑んだ。

大事なことに気が付いて、愕然とする。


真琴はまだ一度も、きちんと言葉にして「好きです」と、古庄に伝えた覚えがない。

あれだけ古庄は、言葉を尽くして真琴への想いを表現してくれているのに…。


真琴は動転して、固まってしまった。


心にある想いの全てを、ここで伝えたいのに、何も言葉として表れてくれない。

ただ一言「好きです」と告げることさえも、声が喉に張り付いたように発せられなかった。


そんな動揺の中で、真琴は辛うじて微かに頷いた。


たったそれだけの意志表示を読み取って、古庄は満ち足りたように真琴に優しく微笑みかけてくれた。


この微笑みに応えたい――。

自分の中に溢れていくこの想いを、古庄に伝えたい――。

真琴は切実にそう思った。



真琴は勇気を奮い起こして、意を決した。
腕を動かして、浴衣の帯を解く。


突然のことに、古庄は息を呑んで目を見張り、真琴の行動を見守っている。



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