恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②
「あの、お父さん、お母さん。この人は、同じ職場の…」
と、衝撃で固まる空気を破って、真琴が口を開くと、
「古庄和彦と申します。よろしくお願いいたします」
古庄は姿勢を整えて自己紹介をし、深々と頭を下げた。
両親は釣られて頭を上げはしたが、何も言葉にならなかった。
古庄をリビングへと通しても、空気は張りつめたままで、依然として両親の態度はものすごくよそよそしい。
「古庄先生はね、地理の先生でね。私と同じ地歴科の先生なの」
場を和ませようと、真琴が会話の端緒を開こうとする。
古庄も恥ずかしそうに真琴へと視線を投げかけ、微笑みを交わした。
けれども、ソファーに座る父親も、お茶を淹れている母親も、まるでロボットのようにぎこちない。心の中の動揺を映して笑うどころではなく、その表情はひきつっている。
そんな真琴の両親を見て、古庄は出会ったばかりの真琴を思い出した。
口をきいても素っ気なく、目を合わしても仏頂面、まるで邪険にされているような態度…。
――…俺に対するこの反応は、もしかして、賀川家の習性なのか……?!
古庄の額に、ジワリと冷や汗が出てくる。
真琴の場合、自分は大勢の中の同僚の一人にすぎなかったが、真琴の両親にとっては年頃の大事な娘が初めて連れてきた、ただ一人の男だ。
嫌われていたり悪意を持たれてたりするものでないことは、真琴の場合で経験済みだが…。
衝撃の度合いが違いすぎて、打ち解けてもらうには、真琴の時よりも時間がかかってしまうかもしれない。
それでも、古庄は勇気を出さねばならなかった。
何よりも愛しい真琴のためにも。
真琴の両親に、自分たちの結婚を認めてもらわねばならない――。
意を決して、古庄は言葉を出すための息を吸い込んだ。
「おねーちゃん!!帰ってたんだ!おかえりぃ~!!」