恋はしょうがない。〜初めての夜〜 + Side Story ①&②





――高校生の頃、こうやって、とにかく体を鍛えたよなぁ…


それは、ラグビーをするための体を作るために。
この懸垂やベンチプレス、肺が潰れそうなほどのランニング…とにかく自分を苛めて、そしてよく食べていた。


自分の高校時代に思いを馳せて、ふと先ほどの正志を思い出す。
正志もラグビーをする体作りのために、ランニングをして来たのではないか…。


と考えている内に、もう息が切れてきたので、古庄は地面に足を付けた。まだ懸垂を10回しかしていないことに、自分の体力の衰えを知る。



「…ねえ」


その時、背後から声をかけられた。

振り向くと、そこには正志が立っていて、手にはラグビーボールを持っている。


「スクリューパス、教えてよ」


正志からいきなり切り出されて戸惑ったが、古庄は笑顔で応えた。

これは、正志なりの和解の仕方だと思った。



「うん、じゃあ。普通に放ってみて」


「普通に?」


「うん、平パスだよ。ストレートパス」


そう言われて、正志はボールを古庄に向かって普通に投げた。古庄も普通に投げ返して、しばらく普通のパスをする。


「よし、平パスは上手だから、次はスクリューパス。いつもやってる通りに投げてみようか」


と、何度か投げさせてみたけれど、本人が言うようにどれもうまく投げられていない。投げるたびに工夫はしているようだが、回転がかかっていなかったり、意識しすぎて手元が狂ったり。


「先輩はどういう風に教えてくれてる?」


都留山のラグビー部だったら、それは確実な技の伝授が行われているはずだ。


「クルッて回すとか、ピッて弾くとか…。とにかく練習しろ、とか」


すごく抽象的で感覚的だ。
多分、身体で覚えてることを他人に教えるのは難しいことなのだろう。そして、身体で覚えるためには練習するしかないということだ。




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