ルージュのキスは恋の始まり
 盛大な溜め息をついて、役員専用のエレベーターに向かう。

 だが、視界に見覚えのある人物が映った。

 帽子を深く被って清掃スタッフの格好をしているが、この背格好・・・間違いない。

 ハーッとまたもや溜め息が出た。

 今日は厄日か。

「じじい、こんなところで何をしている?」

「ほっほっほっ、掃除ですよ」

 どこの清掃員がそんな笑い方するか。

「手が全く動いていないが」

 俺が冷ややかな眼差しでじじいを見ると、じじいが逆ギレした。

「ふん、孫がちゃんと真面目に働いてるか見に来て何が悪い」

「開き直るな、じじい。片岡、お前の親父に連絡して早くこの変人回収させろ」

「はい、ボス」

片岡が携帯を取り出して電話をかける。

「回収とはなんだ。回収とは」

 じじいが俺を睨み付けるが気にしない。
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