いつだってそこには君がいた。
不思議に思いながら再び黒板に目を移す。
「ねぇ、日高さんって結城と付き合ってるってほんと?」
「え⁉︎いやいや、付き合ってないよ!」
「それってマジ?」
「うん」
疑いの眼差しを向けてくる田中くんに真剣な目線で対抗する。そうするとほっとしたように胸を撫で下ろした彼が「そっかぁ」と少しだけ安堵したようにはにかんだ。
その仕草の奥に隠れている感情がどうにも私には読み取れなくて首を傾げながら彼を見た。
「なんでもないよ」
「うん……?」
田中くんがなんでもないと言うのなら、なんでもないのだろうと納得する。
私と結城くんが付き合っているという信じがたい噂が広まっていることを改めて実感させられた。
一日一善という言葉が好きで頑張って続けている黒板消しの仕事だが、なにかいいこと起きてくれないかな。
そんなことを考えながら最後の一文字を消し去った。
***
六月上旬、最近雨の降る日が多いなと思っていたら梅雨入りしたのだとテレビの中のアナウンサーが言っていた。じめじめとした湿気と淀んだ空に気分まで滅入るようだ。
大粒の雨が地面に跳ね返り、ローファーが濡れて、前がよく見えずに今朝は水溜りに足を自ら突っ込んでしまって靴下まで濡れた。
今日はとことんついていない。
一緒に登校していた三人には当然のごとく存分に笑われた。
「あれ、優梨ちゃん珍しく機嫌悪い?」
頬杖をついてぼうっとしていると、隣の席に座る雪菜ちゃんが顔を覗いてくる。
私は笑みを顔にひっつけると「そんなことないよ」と言った。