裏腹な彼との恋愛設計図
俺だって、本当は離婚してほしくはなかったが、俺にはどうすることも出来なかった。母さんの気持ちが離れていたから。

父親と離れることになったあの時には、もう恨みの気持ちはなく、同情と心配と……寂しさだけがせめぎ合っていた。


そう、もう恨んではいなかったのに、俺はずっと父親を避けていた。

人間不信のような状態になったことも、寂しい高校生活を送ることになったのも、全部彼のせいにしていれば楽だったから。

結局俺は、逃げてばかりの弱い自分を認めたくなかっただけなんだ。


二人が離婚する時も、感謝の言葉一つ言えずに別れた。

きっと今も、あの人は俺に恨まれていると思っているのだろう。

俺にとっては、何年経っても、まったく会っていなくても、やはり父親には変わりない。

緊急手術だなんて聞いて、いてもたってもいられないほど心配になっている今の自分がそれを物語っている。


「“逃げてばかりじゃ明るい未来は作れない”……か」


電話を切り、なんとなく鈴森の格言みたいな言葉を反芻してみた。

店内をほのかに照らすガラスペンダントの灯りのように薄暗い現状も、俺次第で明るくすることが出来るのだろう。


──一歩踏み出すなら、きっと今だ。

過去をなかったことになんてせずに、しっかりと飲み込んで消化しなければいけない。




< 224 / 280 >

この作品をシェア

pagetop