On the way
はるかとは進学先が別だった。
会おうとしなければ会えないもどかしさに想いは募った。



「明日も会いたい」
「明日も会える?」



そんな会話の合間に交わす、別れを惜しむくちづけは蕩けるほどに甘い。
何度繰り返しても厭きる事のない甘美な味わいに陶酔しながら
俺は胸に狂おしいほどの切なさを覚えた。



離れたくない。放したくない。
この唇もこの髪も、零れる吐息のひとつでさえ
誰にも渡したくない。


俺だけのものにしたい。


その証をこの滑らかな肌に刻みつけて 
その瞳に俺だけを焼き付けたい。
俺以外は何もいらないと言わせたい。
その声は俺を呼ぶためだけにあればいい。


愛しい。
どうしようもなく愛しいお前が・・・欲しい。



でもその一言がどうしてもいえなかった。



言えば彼女は拒まなかっただろう。 
でも言えなかった。・・・抱けなかった。


今、はるかを抱いてしまったら俺は彼女と離れられなくなってしまう。
夢や目標の為なら どれだけでもストイックになれた。その自信はあった。
なのに・・・これだけは 彼女への想いだけは抑えようがない。



「はるか・・・はるか」



繰り返し彼女の名を呼び、何度も抱きしめた。
それでも足りない。けれど そうするしかなかった。


たかが女の一人や二人、代わりはいくらでもいると言う人もいるだろうが
それは本気で人を愛した経験の無い人間が言う事だ。
はるかの代わりになる女性などいない。彼女はこの世にたった一人だ。
彼女だから好きになった。彼女でなければ愛せない。



愛した者への執着を俺はこのとき嫌と言うほど思い知った。



それほどに欲した相手を抱いた時、その全てを独占した満足感と同じくらいに
失う事の怖さを強く感じずにはいられないだろう。
そうなれば離れ難くなる。留学の決意が揺らぐ。 
それが何より怖かった。



この留学はもう随分前から決めて準備を進め手配をしていた。
時間をかけて両親も説得した。
先生をはじめ、コーチや協会にも尽力してもらった。
条件も状況も全てにおいて世界に出るチャンスは今だ。今しかない。
変えることも辞めることもできない。



望みと想いとの間で歯噛みするような自分を
笑顔の裏に隠して春の終わりの連休に、はるかを遠出に誘った。



目的は行楽じゃない。留学することを告げる為だ。

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