On the way
「嬉しい」 と無邪気にはしゃぐはるかの笑顔に胸が痛んだ。
このまま楽しいだけの時間にしてしまおうか、と心が揺れた。
伝える事を後に延ばせば延ばすほど辛くなるのは分かっているのに。



「はるか」
「ん?」
「聞いてくれ」
「なあに?」



―― 3年間留学する。



それ以外は何も言えなかった。
待てと言えば、それは傲慢になる。



ならば・・・別れるか。



それを自身に問うた時、俺は彼女の未来に嫉妬した。
はるかが他の男の腕の中で微笑み、泣き、そして眠るのかと思うと
鈍く濁った耳障りな音をさせて湧き上がってくる苦く激しい感情に
我を忘れてしまいそうになった。
別れるとはとても言えないとかぶりを振った。



だから事実だけを伝えた。
はるかが待つと言ってくれるのをどこかで期待しなかったか、と言えば嘘になる。
結局 彼女に結論を委ねてしまった自分の狡さと
はるかを思いやる事ができない情けなさに吐き気がした。
それでも彼女との繋がりを自ら断つことなど、できなかった。



「だから・・・別れたいってこと?」
「違う!そうじゃない」



待っていて欲しい、と口を突いて出そうになった。
我が儘を許して欲しいと跪き懇願したら君は呆れるだろうか。



「何となく・・そんな気がしてた」
「え?」
「留学。卒業式のちょっと前から噂だったから」
「そうか・・・」



うん、と切なげに微笑む彼女の両手が俺の利き手を包んだ。



「私は・・・離れていても会えなくても透を好きでいたい。
 でもそれが透にとって迷惑なら やめる」



はるかの驚くでもなく戸惑うでもなく穏やかな
それでいて強い決意の感じられる口調に俺は思った。


こんな事態が起こる事も予想して色々と考えていたのだろう。
噂の真偽を俺に確かめられなかったのも彼女らしいといえばらしいが・・・
いっそ そこで確かめてくれれば良かったのに、とも思ってしまう。


でもそれは違う。何も言わずにいた俺が悪い。


こんな事ならもっと早くに打ち明けていればよかった。
言い出せなかったばかりにはるかには眠れない夜を過させてしまったかもしれない。
俺は・・・そんな風にはるかを悩ませる原因になりたかったわけじゃない。
愛して愛されたい。ただそれだけだったのに。
居た堪れない思いで力任せに彼女を抱き寄せた。



「迷惑なわけが無い!そんな事はない。絶対に!」
「本当?本当に」
「本当だ。この世の全てに誓う」
「じゃあ・・・いい?このまま好きでいても」



そんな事は聞かれるまでも無い。いいに決まっている。
でも・・・3年は短い時間じゃない。



「はるかは それでいいのか?」



少し身体を離して問うように覗き込んだ彼女の瞳が揺れた。


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