幼馴染みはイジワル課長

「え…」


ケーキに伸びた手が止まり、私は歩未ちゃんの方に目を向けた。

歩未ちゃんは怒っているような顔をしたあと、呆れたように紅茶を飲む。






「…部長がそう言ってきたの？」

「そう。目を覚ましたら病院のベットで点滴打ってたんだけど、そばに部長がいてさ…しばらく会話した後そう言ってきたの…私腹が立って思わず「帰って！」って怒鳴っちゃった」


ムカムカしている様子の歩未ちゃんは、キーと言って膝に置いていたクッションを叩く。





「あんなボロクソに私を振ったくせに、また寄りを戻そうなんてそんな甘い考えってある？離婚出来ないくせにまた私と付き合う気でいるなんて、部長って案外たいしたことない奴なんだなって思っちゃった…」

「…」


返す言葉がない。


私は部長の気持ちを知っている…

あの時…倒れた歩未ちゃんに駆け寄ったあの部長の横顔も見ていた…


碧も同じだ。







「やっぱり男の人って…二股とかかけたい生き物なのかな？遊びたいだけなら結婚なんかしなきゃいいのにね。本当にバカみたい」


違うよ歩未ちゃん…

部長はそんなんじゃない…







「なんか一気に冷めちゃった…誰がいい人いないかなぁ…ずっと渋ってたけど、やっぱり合コンとか行った方がいい…」

「部長…今でも歩未ちゃんの事好きだよ」



言ってしまった…


私って本当にバカだ。


歩未ちゃんは「え…」と言ってかなり驚いている。





ごめんなさい。

どうしても…ダメだ…


やっぱり私は…

部長を応援してしまう…



そして、歩未ちゃんも……






「この前泣いてた…」

「っ…」

「…歩未ちゃんを想って泣いてたよ」



あの涙は今でも覚えてる。

会社の上司が部下の前で泣くなんて…恋愛は人をこんなにも狂わすんだって思った。

人を好きになったら負けだと、なんとなく聞いたことのある言葉は案外外れていないのかもしれない…






「ぅっ………くっ」

「歩未ちゃん…」


涙を流す歩未ちゃんを、私は力いっぱい抱きしめる。


きっとずっと強がりいたんだと思う…

部長から寄りを戻そうと言われた時は、絶対に歩未ちゃん自身も少しは心が揺らいだはずなんだ…


その気持ちはわかるよ。間違ってないよ…




ねえ、だからさ…


もうちゃんと決着をつけようよ…




恋をするのに歳は関係ないけど…大人の恋をしようよ。


それが大人の恋のルールでしょ…？










「歩未ちゃん…？」


少し落ち着いて来た頃、私は歩未ちゃんにティッシュを差し出しながら話しかけた。





「部長の電話番号ってわかる？」

「…」


歩未ちゃんは黙って涙を拭きながら、静かにコクリと頷いた。






「部長に電話してちゃんと話そう。ね？」


この行為が間違ってるのはわかってる。

だけど…部長の想いをちゃんと歩未ちゃんに伝えるべきだよ。


病院では誤解されてしまったその想いを、きちんと話して…







ﾌﾟﾙﾙﾙﾙﾙ…

ﾌﾟﾙﾙﾙﾙﾙ……ﾌﾟﾂ




歩未ちゃんのスマホから部長に電話をかけると、2コール目で電話が繋がる。その電話の出方からして、なんだかためらったような気がした。






「もしもし？」


少し驚いている部長。同時に嬉しそうにも聞こえる。





「澤村です。お休み中すいません」

「…澤村？どうしたんだ？なぜ歩未の携帯からかけている？」

「今歩未ちゃんと一緒にいるんですが…」



私は部長に、これから歩未ちゃんと会って話をして欲しいと頼んだ。

部長は即OKしてくれて、何故か私も一緒に来るように言われた。







「桜花ちゃん…ありがとう」


電話を切ると、歩未ちゃんが私に近寄って目にたくさん涙を溜めて言った。私は歩未ちゃんの手を握って口を開く。






「ううん…じゃあ、支度しようか」

「うん…」


私と歩未ちゃんは出かける支度をして、2人で待ち合わせ場所に向かった。

部長が指定した場所は歩未ちゃんの家の近くのファミレスで、先に着いた私達は席について飲み物を頼んだ。