幼馴染みはイジワル課長
「緊張する…」


ドリンクバーでグラスを持つ歩未ちゃんの手が震えている。私は背中をさすり、歩未ちゃんの分の飲み物を入れた。






「歩未」


すると出入り口の方から歩未ちゃんを呼ぶ声がして、振り返るとそこには部長がいた。そして後ろには…





「あ、碧!?」


部長のすぐ後ろには何故か碧の姿が…!わけもわからず、グラスを手に持ちながらその場で呆然としていると、部長がこっちにゆっくりと近づいてきた。


歩未ちゃんは少しためらいながら部長から目をそらすと、下をうつむいていた。




やっぱり怖いのかな…

当たり前だよね…








「歩未…」


部長は歩未ちゃんに近づくと、肩にそっと触れて申し訳なさそうな顔した。そして…





「妻とは別れたよ」

「え…」


唐突に言われた言葉に、歩未ちゃんは当然驚いて目を見開いていた。そばにいる私だって同じ。

碧は特に表情を変えることなく、ポケットに手を入れながらその場に立ち尽くす。









「別れたというか…別居と言った方が正しいけどね。でもちゃんと弁護士を立てて、離婚の方向には向かってる。だから…」


部長が歩未ちゃんの柔らかいショートヘアの髪に触れる。そして眉をしかめて辛そうな顔して続けた。







「…寄りを戻したい」


涙目になる部長。そんな姿を見て歩未ちゃんはたまらずに涙を流していた…

気がつくと私の目からも涙が溢れていて、ちらっと碧を見るとそんな私を見て呆れたようにため息をついている。




部長の言葉に、コクンと頷いた歩未ちゃんを優しく抱きしめる部長。

よく考えたらここはファミレスで今はお客さんは少ないものの、チラチラとこっちを見てる人もいる。

碧が慌てたように2人をテーブルに座らせると、私はまるでおまけのペットのように着ている服の襟をつままれて席に連れていかれた…











「お待たせ致しました」



テーブルには美味しそうなパンケーキが運ばれて来て、私と歩未ちゃんのテンションは一気に上がる。


しばらくして落ち着いたあと、何か甘いものでも食べようということなり、デザートを注目した私達。

泣いていた歩未ちゃんは今は元気ですごく幸せそう…部長と時々交わす会話も、元のカップルの時のものに戻っている。







「真田と澤村には色々迷惑かけたな」


私と歩未ちゃんがパンケーキを食べ始めると、アイスコーヒーを飲む部長がボソッと言った。







「いえ、そんなことは…」


私は迷惑だとは思ってないよ。




「これから大変だとは思いますが、今度こそ間違いを侵さないようにして下さいね」


隣にいる碧がニコッと微笑んでそう言うと、丁寧な口調だけど少しチクッとした言葉を放つ。





「アハハ…お前には本当に負けるよ」


部長は笑いながらも、碧に何度もお礼の言葉を繰り返していた。

部長の隣に寄り添うように座る歩未ちゃんは本当に幸せそうで、最近は元気がなかった事もあり私は心から安心していた。





今度こそ幸せになって欲しい…

今はそれを願うだけ。








「それじゃあ俺達は帰ります」


え…





碧が部長にそう言うと、伝票を持って立ち上がった。



俺達ってことは…私もだよね?

ちょっと嬉しくなり、心臓がぴょんと飛び跳ねてワクワクしてくる。







「もう帰るのか?これから晩飯でもご馳走しようと思っていたのに…」


とっさに碧を引き止める部長。







「今日は帰ります。それに部長も早く山城と2人きりになりたいんじゃないんですか」
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