いつかあなたに還るまで
「はい。誰かのことを思って悩んだり嬉しい気持ちになったり。そういうことで感情が揺さぶられることはとてもいいことだと思います。だって志保さんはそういう日常を求めていらしたでしょう?」
「あ…」
宮間の言わんとすることがわかった。
今はほとんど言わなくなったが、思春期真っ只中だった頃、志保は口癖のように「恋がしたい」「普通の女の子のように生活してみたい」と零していた。もちろんそんな姿を見せるのは宮間限定だったが、いくら忠誠を誓った相手といえど、そればかりは宮間には叶えてあげるのは難しいことだった。
状況を演出してあげることは簡単だが、人の心までは操作できない。
全く有難くない意味で異性に対する悩みを抱いたことはあっても、自らがその人を想って心が揺れ動くというのは志保にとってはこれが初めてのこと。
それはつまり…
「恋をされてるんですね」
「こ、恋…?」
ビシッとどこからどうみてもキャリアウーマンオーラを纏った宮間には似ても似つかないセリフに、思わずオウム返ししてしまった。
「霧島様のことがお好きなのですね」
「……っ」
曖昧に濁さずはっきりと言われた言葉に、ドクンと心臓が大きく波打った。