いつかあなたに還るまで
「帰国したら志保に聞いて欲しいことがあるんだ」
「え?」
仕事で海外へと飛び立つ前、空港まで見送りにきた志保に、いつになく真剣な顔で隼人がそう言った。
あまりにも真剣過ぎて、一体どんな話なのだろうと思ったのは一瞬のこと。
「…はい。待ってますから。気をつけて行ってきてくださいね」
どんな話だろうと、今の彼を見ていればそれが未来に向かったものであると信じられた。それほどに、あの夜を境に彼は変わった。
何を考えているかわからないなんて感じることもない。
いつだって、ありのままの彼をさらけ出してくれているのがわかるから。
にっこりと微笑む志保に、隼人もくしゃっと目尻を下げて笑う。
自分を取り繕うことをやめた彼は、こんなにも表情豊かだったのかと驚く。
きっと一番驚いているのは彼自身なんじゃないかと思うほどに。
「しばらくの間会えなくて残念だけど、向こうからも連絡する。帰って来たらすぐに会いに行くから」
「はい。楽しみに待ってますね」
コクンと頷くと、何故か隼人がきょろきょろと周囲に目をやる。どうしたのかと首を傾げる志保を引き寄せると、ほんの一瞬だけ唇を重ねた。
「 ! 」
「じゃあ行ってくる」
驚き顔を真っ赤に染める志保に笑いながら、隼人は出発ロビーの向こうへと消えていった。
「…もう、ほんとに別人だよ…」
燃えるように熱い頬をおさえながらもにやける口元を隠すことができない。
あの日、自分に我儘になって本当に良かった。
あの時の勇気がなければ、今の私達はいなかったかもしれないから。