いつかあなたに還るまで
大学からの帰り道、友人と出かけたいからといつもの送迎を断った。
朝、自宅から持ってきた荷物を手にトイレに駆け込むと、いつもからは想像もつかない格好へと着替えた。この日のためにインターネットで購入していたもの。
タンガリーシャツに紺のパンツ、真っ黒なショートのウイッグに黒縁眼鏡、そして黒いキャップと、一見すれば男・・・もとい少年にしか見えない姿へと変身した。
普段のお嬢様然とした彼女からはまず想像もできない姿だ。
志保の目論見通り自由の身になると、どうせならばとこれまでしたくてもできなかったことに挑戦してみた。とはいっても世間的に見れば大したことではない。
コンビニに行って肉まんというものを買って公園で食べたい。
たったそれだけのことが、志保にとっては憧れだった。
偶然見かけたドラマで学生が学校帰りにそうしてデートをして楽しんでいる姿を見てから、いつか自分もやってみたいと思っていた。隣に男性がいないのはもうやむを得ないものとして。
購入した肉まんを手に大きな公園へと向かう。
そこには散歩する人、走る人、ベンチに腰掛けて休む人、広場で遊ぶ子ども達、
ありとあらゆる人の時間がゆったりと流れていた。
それが志保にとっては眩しくて仕方がなかった。