音楽が聴こえる
父はいつもあたしのことを一番に考えてくれていた。

たまにウザくなるほどに。

そんなことを口にして、喧嘩して、仲直りして。

その日常がずっと先まで続くものだと思ってた。


永遠なんて無いのに。



「……やっぱ真っ昼間からの酒はいけないねー、佐由美さん。飲み過ぎてタガが外れた」


テーブルに左の頬をピタッとくっ付けて、クスクスと笑ってるあたしの向かい側で、佐由美さんは潤んだ目を何度かしばたたかせた。


「茉奈ちゃん、楽器は? もうやってないの?」

「ギターはやらない。曲も作んない。そういうエネルギーも欲求も無いし。でも……ピアノは辞めてない。あれは、あたしのだから」

もう、誰かに何かを聴かせたいとか、届けたいとか、そんなものは感じたりしないけど。

「ガス抜きするための儀式みたいなもんかな、ピアノは」

あの日々を美化するつもりもないけど、あんなに輝いて見えたのは仲間達が居たからだ。






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