音楽が聴こえる
「この間までは、確信が持てなかったんですけど、眼鏡を外した貴女を見て分かりました」


何なんだ。この展開は。


「あのー、早見先生?」

「……あの頃、ずっと憧れていたんです」

資料を集めるあたしの手を、上から握る早見先生。

あたしは小さく溜息を吐いて、さっきより少々顔を高陽させた彼の顔をじっと見詰めた。


「少しずつで構いません。僕を知って貰えませんか?」

「……早見先生、手を離して欲しいんですけど」

「あんなスターと付き合ってた貴女には、僕は無理ですか?」

苛立ちが急上昇したのが、自分でも分かった。

耳鳴りがした気がする。


……遠慮するのは止めっ 。

あたしは、早見先生の手を思い切り振り払って、彼を睨み付けた。

「早見先生の言ってる意味、分かりません。……先生が憧れていた女なんて、ここに居ませんよ。よっく目ぇ開けて見て下さい」

捨て台詞みたいな言葉を吐いて、教務室のドアをピシャリと閉めた。

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