音楽が聴こえる
って……あぁ。

こんな風に胸の内を曝すつもりなんて無かったのに。

こめかみの辺りの脈がバクバクして、頭に血がのぼっていくのが分かる。


悟はそれまで忙しなく動かしていた手を止め、息が乱れたまま赤面したあたしを数秒間凝視した。

彼は大きな酒臭い溜息を吐くと、重力に逆らう気が失せたらしく、容赦ない重さであたしの体を潰す。

息苦しさに思わず呻くと、悟は漸く体を横へずらした。


「お前……何でこのタイミングよ」

悟はあたしの両手首を掴んだものの、ばつの悪そうな顔をして、すぐに離した。

「……悪い。風呂入って来る」




あたしは恐ろしく、思い違いをしてたんだろうか。

家族的な愛情に対して、最初に不純物を混ぜたのは確かにあたしなんだけど。

ジクジクとした痛みが、あたしの胸の中を縁どっていった。

見事にスルーされた挙げ句。
これって……なんて不完全燃焼な。


ふらふらと怪しい足取りで歩く悟の背中が、ぼやけて見えて、目に涙の膜が張っていたことに気付いた。

……帰ろう。

悟の熱が抜けて寒くなった体を起したあたしは急いで身仕度を整えて、逃げるように部屋を出た。

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