音楽が聴こえる
「で?」

『あの2曲目の曲のサビって、ファルセットで歌えないの?』

「歌えねぇ。……俺の裏声、ヤバいくらい汚ねーもん」

『それって声の張り方次第でしょ。きちんと練習したことある?』

「今更さぁ割り箸咥えて歌え、なんて無しだぜ?」

いつだったかカラオケの歌い方教えます、なんてテレビでやってたけど必死な姿が微妙過ぎて、すぐに他の番組に変えちまった記憶がある。

『割り箸? 何、それ』

香田が低い音で小さく笑うだけで、俺の耳元をカッと熱くさせた。ようやく普通に動き始めた心臓が、脳天に抜ける感じに、またもやドクリドクリと大きな音をさせた。

俺は、上滑りそうな声を抑え、あえて横柄な言い方をした。

「じゃあさ……センセーが教えろよ」

香田の、うっ、と詰まった息遣いを感じて、気を持ち直した俺は、自分でも信じられねぇくらい雄弁になった。

「また下手くそって言われたくねーもん。これ、ワビ入れるための電話だろ? んで、改善の余地ありって言うんだったらセンセーが教えてくれんのが、筋ってもんじゃねぇの?」



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