音楽が聴こえる
「あ、ごめん。いつものクセで」

「いつものクセ?」

変な顔をする斎賀に、ああそうだ、と我にかえる。

この子が知るわけもない。

「……発声って、結構ストレス解消になると思わない?」

「すとれす、ハハハ。溜まってんの? センセ」

そうだ。ストレス解消になるからこそ、週の終わりになるとピアノのそばに行きたくなる。

悟のそばに。と、まで考えて首を横に振った。今は余計なことを考えたくない。

「大声出したいくらいには。君みたいに授業を聞かない子とかストレスっちゃ、そうよね」

「んでぇ? 俺なに歌う?」

旗色が悪いことを察したらしい斎賀は、話を変えた。

「あの曲この間の2曲目、アレ歌って」

イントロ部分をピアノで弾きはじめると、とたんに斎賀は目を眇める。

「……なんだよ、それ」

「弾くから、歌ってよ」

彼にメロディラインをなぞらせようと、あたしの指はゆっくりと鍵盤を叩いた。
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