音楽が聴こえる
どのみち、悟は関わらせたかったのだ。

この音楽バカな子達とあたしを。

ーーー

あたしはすり鉢状になっている視聴覚室の席の隅っこで、この十日間、毎日文庫本を読んでいた。

小テストの問題作りをするわけにもいかないし、何よりバンドに口出しするわけにもいかない。

微妙にフラストレーションが堪る時間。


彼等の音を聞いてると、思うようにいかない焦りとイライラが、手に取るように伝わって来る。それが何より痛く感じる。

「少し休憩して、もう一回合わせようよ」

高城が指で弦をピチパチ弾きながら言う。

斉賀は、ペットボトルのミネラルウォーターをごくごく飲み干して、ゴミをポイッと投げた。

「……全然イケてねぇ」


高城はあたしに近付いて「時間、もう少しだけ良いですか」と形ばかりでも、お伺いをたててくれるからあたしは短く頷いた。

ソツの無い子だ。


その様子を見て、斉賀がフンッと鼻を鳴らす。

あたしがお断りモードだったことを、まだ根に持っているらしい。
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