音楽が聴こえる
ドアに耳を強く押し付けると、ギターの音色が微かに聞こえて来る。

アコースティックギターのシンプルな音。

あたしは、そっとドアを押した。

途端にギターを爪弾く音量が大きく聞こえたが、生の音なのでそんなに煩くはない。

メロディラインを鼻歌混じりに歌ってた悟は、あたしの気配を感じたのか、くるりと振り返った。

「よう、珍しいな」

ギター弾きながら笑い掛けてくる悟は、楽し気だった。

「金曜じゃないから?」

「違うよ」

彼はアコギをコレクションの中に戻して立ち上がる。

「……この格好」

悟は手を伸ばして、あたしの白いブラウスの襟をくいくい引っ張った。

「ああ。面倒だったから、そのまま来た」

「何かあったんか?」

悟の見透かすような瞳が、何故かあたしをたまらない気持ちにさせる。

「……斉賀の奴に八つ当たりされたから、下手くそって言ってやった」

悟は口の端を持ち上げ、あたしの腰に左腕を回した。


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