音楽が聴こえる
確かに文化祭に出るってことを言い訳に練習しなよと言ったのはあたしだけど。

受験生の4人が期間限定とはいえ、音楽に打ち込むさまは多少なりとも物議を醸し出した。

それを何とか宥めて、視聴覚室の使用権利を貰ったあたしへの風当たりも、弱いとは言い難い。

地味でひっそりとしていた人間が何の人気取りなのか、と陰口を叩く教師もいるみたい。


会議が終わった後、溜息交じりに教務室へ戻ろうと廊下を歩き出したところ、もう一人の被害者である早見先生に呼び止められた。

「香田先生、ちょっと良いですか?」

「はい?」

あたしが振り返ると、早見先生はニコリと笑う。

早見先生はあたしより二年先輩の社会科の男性教師で、今年は一年生を受け持っている。

優しげな眼差しと整い目の顔が生徒に人気らしいと、職員室の噂話で耳にしたことがある程度で、同僚とは言ってもあたしには今まで接点のない先生だった。


「文化祭、御一緒出来ることになりましたね」

御一緒って言うものなの? あれは。

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