音楽が聴こえる
とは言え、仕事の後のご飯だったから、あたしは先に食べて、二人分の遅い夕食をテーブルに残して置くことが多かったのだけど。

その頃から、彼はあたしの作ったハンバーグを絶賛してくれていた。

それは今でも変わらず、月に一度はメニューに組み込んで欲しくなるらしい。


あたしは自分の家で夕飯を済ませ、一日の汚れを落としてから、悟のマンションへ向かった。

そして、悟が帰ってくるだろう時間まで、延々とピアノを引き続けるのだ。


今日は譜面の無いあの曲達を弾きたくて、指が疼く。

高城が作った曲に斉賀が歌詞を付けているらしい『SPLASH』の楽曲達。

ギターをかき鳴らすのとはまた違い、ピアノだとよりポップで尚且つ上品な音色に響く。

斉賀が歌っていたようにコピーすると、自分でも可笑しくなって来た。


人に聴かせるための音楽もあるけど、こうやって弾いて歌うだけでも、楽しい。


あたしのための、あたしだけの音楽。


あたしはスマホのタイマーアプリが作動するまで、延々とピアノを弾き続けた。

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