White Magic ~俺様ドクターの魔法~


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「今日は、割と暇やったね」


朝方、奈緒は笑顔―――と言っても疲れた顔―――で私に言うと、患者さんの朝食の準備をしに行った。


「私も行かないと」



誰もいないナースステーションで独り言を言うと、私も奈緒に続いて出た。


廊下に出て窓の外を見ると、風が強く、中庭の木々が激しく揺れていた。



ご飯食べてたかな?


ちゃんと眠れたかな?



夜勤の間、ずっとそんなことを考えていた。


昨日、先生からのメールが来たのは、病院を出て30分後だった。


実際に私が確認できたのは、夜中になってからだったので、返事をしていなかった。


【今、家に着いた。

今日はありがとう。嬉しかった。仕事頑張れ!】



仕事が終わり、病院を出るとすぐにメールを打ち始めた。


【気分はどうですか?食べられてますか?】



一番気になっていること。


打っている途中で温かかった手も冷たくなっていた。



寒い・・・・・。



まだ春が遠そうな空は、今にも雪が降り出しそうな様子だった。


風も強く仕事中はまとめていた髪を下ろすと、容赦なく乱されてしまう。


いつもの帰り道を歩いていると、手の中でスマホが震えだしたので驚いた。



―――新着メール1件―――


差出人:佐々木先生(俺様ドクター)


【今起きた。あんまり食欲はないかな。】



「今起きたって・・・」


平日の10時に起きたっってことは、今日は病院を休んだのかな?



【今日は休みですか?】


【うん、休み】


【ゆっくり休んでくださいね。】


【ありがとう】


このメールが来たのと同時に私はバス停に着いた。


私はいつもバスで通勤している。


バスで10分の距離だが、坂道が多くて自転車は断念した。



―――楓台―――



いつも乗るバスの行き先にあった地名が目に入った。



―――〇〇市楓台グリーンフル505号―――


佐々木先生のカルテに記載されていた住所。


我が家からも近いので記憶に残っていた。


気付くと、自分が降りるバス停を通り過ぎていた。



そして、楓台停留所で降りた。



バスを降りてキョロキョロと周りを見渡すと、地図が目に入った。



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