甘いヒミツは恋の罠
 静寂を裂くようにデスクの上の携帯が鳴りだした。また仕事の話だろうと気だるく電話を取ると、それは思いがけない人物からだった。


『瑠夏か?』


「あぁ、兄貴か」


 朝比奈の兄でありアルチェスの代表取締役でもある朝比奈翔は、社長になってからというもの、忙しさのせいかめっきり本店に顔を出さなくなった。今はこうして週に数回かかってくる電話で会話をする程度だ。


『それで? そっちは女遊びが相変わらずみたいじゃないか、この間、宇都宮のご令嬢からアルチェスの本店でひどい目にあったって本部で大暴れされて参ったよ』


「あぁ、ちょっとうちの小娘に生意気な態度を取られて機嫌を損ねただけだよ」


『小娘? おいおい、ちゃんと社員教育はしてくれよ? 貴重なやり手バイヤーなんだから……ところでその小娘ってのは――』


「あぁ、別に……この世のどの女よりも価値のある女だよ」


『え……? おい、どういうことだ?』


「今度のデザイナーズフェアでわかる。じゃあ」


 そう言うと、朝比奈は通話を切ってルービックキューブを手に取ると、口の端をあげてニヤリと笑った――。
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