甘いヒミツは恋の罠
「あの子が欲しいんじゃなくて、あの子が身につけてるルビーが欲しいんでしょ?」


「なんだ、知ってたのか」


「宝石バイヤーの目を舐めないで欲しいわね」


 葵は眉を潜めて大野に向き直ると、ハイヒールをカツンと言わせた。


「あの子に初めて会った時からあの上等品の存在には気づいてたわよ、でも神楽坂涼子がデザインしたものだっていうのは知らなかったけど……あの子も狼に狙われるかわいそうな子羊ちゃんね」


「瑠夏だって同じさ、あのルビーを手に入れるために虎視眈々と狙いを定めている……どっちの色仕掛けが勝利するか賭けないか?」


「ばっかみたい、付き合いきれないわ。じゃあね」


 葵は、今度こそ足を止めることなくその部屋を後にした。


「まったく……つまらない女だな。この僕が彼女を落とせるに決まっているのに……」


 大野の独り言は、誰の耳にも入ることなくひっそりと消えていった――。
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