冷たい上司の温め方

「多分、秘書がデスクから持ち出したのよ。
秘書も他社の社員も買収されたのね。
あんまりバカらしいから、さっさと辞めたわ」


そんなに簡単に、取締役を手放すなんて。


「でももういい歳だったし、そんな悪い噂のついたばーさんを雇ってくれるところなんてなくて、掃除おばさんになったの。
だけど、楠君みたいに正義感のある若者に出会えたし、この仕事も結構楽しいわよ」


濡れ衣で人生を台無しにしたのかと思えば、『楽しい』と言ってしまう遠藤さんの器の大きさを感じる。
人生、気の持ちようだ。


「残してきた部下だけが心残り。
でも、クヨクヨしたって仕方ない。
麻田さん、あなたは必ず成功する。頑張りなさい」


私の肩をポンと叩いた遠藤さんは、陽気に鼻歌を歌いながら掃除に行ってしまった。

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