冷たい上司の温め方
そこは、とてもシンプルな部屋だった。
いや、シンプルというより殺風景という言葉がぴったり当てはまるかもしれない。
玄関から真っ直ぐ続く廊下の横にはいくつかのドア。
多分、寝室やトイレだろう。
楠さんが入って行った正面がリビングのようだ。
リビングに足を踏み入れると、白と黒で統一されていて、モデルルームのようだった。
一応掃除好きの私の部屋よりずっと片付いていて、男の人の部屋にしては珍しい。
だけど、あまりに生活感がなくて、不思議な感じだ。
「ボサッと突っ立ってないで、座れ」
黒い革張りのソファを指差した楠さんはそれだけ言うと、隣の部屋に消えていく。
そして、小さな救急箱を持って戻ってくると、「膝を出せ」とぶっきらぼうに言う。