冷たい上司の温め方

地下から人事に戻る途中で、私は考えた。

さっきは、楠さんの仕打ちにひどく腹を立てたけど、彼だって必死なのかもしれない。


『自分の人生を正当化したいだけなんだろうな』と、楠さんは私に言ったことがあったけど、それはもしかして、お父さんのしたことを必死で肯定したいのかもしれない。


だって、正義を守らなければ、お父さんの告発すべてが否定されるようでやり切れないだろう。

そして、大好きなサッカーを辞めなければならなかったことも、意味がなかったことになってしまう。


だけど……笹川さんの告白はどうしたらいい?
笹川さんはとても優しいし、頼れるし……彼と付き合う人は、幸せだろう。

でも……『好きにすればいい』という楠さんの言葉に激しいショックを受けた私は……楠さんのことが、好きなの?
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