冷たい上司の温め方
お父さんのことを許せないと言いながら、きっと理解もしていたのだ。
「親父に憧れていました。
仕事に誇りを持ちいつも凛としていて、それでいて笑顔も絶やさず。
いつも誇らしげに自社製品の素晴らしさを語る親父が好きでした」
拳を握る楠さんは小さく震えていた。
「それなのに……正しいことをして人生を棒に振るなんて、バカげている」
楠さんの言う通りだ。
正しい人が非難されるようなことはあってはならない。
「それでも……遠征費が捻出できず、サッカーの夢が断たれたとき、自然とこの業界を目指していました」
お父さんのことをどこかで憎いと思いながら、心の中では尊敬していたのだ。
「親父やお袋に絶望を与えたやつらに、自分の手で復讐したかった。
だけど、張本人たちは退職していて、もうそれも敵わない」
楠さんの顔がゆがむ。
「それなら同じように不正をしているヤツに、自分の手で制裁を加えようと思いました」