冷たい上司の温め方

いつか三課の仕事を『天職』だと言った彼は、自分が正しい判断を下すことで、お父さんのしたことが間違ってはいなかったと、証明したかったのかもしれない。

「俺、バカですね。
どんな結末が待っているか知っているくせに、親父と同じことをしてる」


思わず楠さんの大きな背中に触れた。
バカなんかじゃない。あなたはお父さんのように熱い情熱を持った人なの。
それを恥じることなんて、ない。


「私ね、あなたのお父さんと一緒に会社を辞めることになったけど、ちっとも後悔してないのよ」


遠藤さんの笑顔を見て、ホッとする。
傍から見れば、彼女の人生も波瀾万丈だ。
それでも、『後悔してない』と言い切る彼女は、今を楽しんでいるのだろう。


「ううん。むしろ感謝してる。
自分の信念貫くって、なかなか爽快なのよ」


清々しい顔をした遠藤さんは「さーてと、皆待ってるから。またね」と戻って行った。


『またね』ということは、私達をここで待っていてくれるということだろう。
私達がきっと解雇にならないと、信じてくれているのかもしれない。
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