冷たい上司の温め方

これって……一体なにが始まるの。


「失礼します」


楠さんに指定された部屋に入ると、彼は私とお揃いの服を着た年配の女性と話していた。

彼女はクマのぬいぐるみのような、大きく丸い体をしていて、“皆のお母さん”というような雰囲気だ。


「あのっ、これって……」


自分の着た作業服をチラッと見て問いかけると、口を開いたのは女性の方だった。


「まぁまぁ。あなたが麻田さんね。
入社前に会社の隅々まで知りたいなんて、勉強家ね」

「えっと……」


隅々までってどういうことだろう。


「私、遠藤です。
掃除グループのリーダーをしています。よろしくね」

「麻田です」


流されるまま挨拶をしてしまったけれど、やっぱりこの作業服は……人事の制服ではなさそうだ。

< 61 / 457 >

この作品をシェア

pagetop