もしも透き通れば
君の心が


 あの朝、彼女は言ったんだった。



 結婚した時が最高潮の時だったなら、あとはもう落ちていくしかないのかしら。


 前の席に座って呟いた妻の言葉に、俺は皿から顔を上げた。

「・・・何、いきなり」

 俺は聞く。

 いつもの朝食風景。目の前に並んだ、彼女の作ってくれたご飯。妻の実家が朝食はパン派だったので、我が家でもそれは受け継がれた。トースト、サラダ、卵料理とコーヒー。

「恋愛結婚の場合ってね」

 妻が言う。さっきトーストを口に入ればかりだったのでもぐもぐしながら。

「好きから始まって、目出度く付き合うことになって、それから紆余曲折を経て結婚にいたるでしょう?プロポーズの時が、多分、お互いに最高潮だと思うのよ。ドキドキの」

 片手で曲線を空中に描きながら話す。

 まだ化粧のしていない彼女の素肌はつやつやしていて、眉毛が少なくて短く、3歳は若く見える。朝の光の中で、それが我が家の日常景色だった。

「それで?」

 俺はコーヒーを飲みながら、こっそりと壁の時計を気にする。後10分で家を出なければ。


< 1 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop