幸せにする刺客、幸せになる資格
★プロローグ~side NORI~
1月の終わり。
長野の冬。

ここ、安曇野の地はそこまで雪が深くはならない。けど、盆地のため寒さは厳しい。

僕、安西徳文(アンザイ ノリフミ)は、ここ、長野でりんご園を始めて間もなく7年。
6回目の冬を迎える。

りんご農家は、収穫時期でないこの季節も、余分な枝をのこぎりやはさみで切り落とし、高い品質のりんごを収穫するための大事な"剪定"という作業がある。

どんなベテランでも、この作業は慎重になり、この作業で3年先のりんごの質や収穫量が決まると言っていいくらいの大切な作業だ。

毎年、剪定の季節は、このりんご園の前の経営者である蜂矢のじいさんに指導を仰ぎながら枝を切っている。

落とした枝は、蜂矢のばあさんが拾い集め、それを全て燃やして灰にし、肥料として土に撒くまでが一連の作業だ。

『もう、腰が痛くて長いこと拾い集めることはできんわ』

婆ちゃんはそう弱音を吐きながらもきちんとやってくれる。
爺ちゃんも厳しいながらも、最近では僕の作業を黙って見ていて時折褒めてくれるようになっていた。

すると、りんご園の空き地に白い軽自動車が一台止まり、中から人が降りてきた。
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