幸せにする刺客、幸せになる資格
琴乃ちゃんの気持ちはよく分かる。
だから僕はこれ以上、琴乃ちゃんに無理強いをしてはいけないと思った。

『私にとっては、いい父なんです。思い出を壊したくないですから』

娘にしてみたら、最低な父親。
だけどそれでも"いい父"と言える琴乃ちゃんのことを見習わなきゃ。

人の親でありながら、人の子でもある僕は、そろそろきちんと親と向き合う時期に来ているのかも知れない。

親はいつまでも元気ではない。
だから、言うべきことを大和は琴乃ちゃんのお母さんに伝えたんだ。

でも次に会うのはあくまでビジネスだ。
親子の会話はきっとできないであろう。

関係を修復しようとは思わない。
だけど、少しだけ歩み寄ってもいいのではないかと、琴乃ちゃんを見て思ったんだ。

大和は僕の考えを聞いたら怒るだろうな。

大丈夫、大和にも絶対納得できるような親子関係を築くから。

何ら策があるわけでもないのに、僕は妙に根拠のない自信だけはあるのだった。

2日後の月曜日の午後になって、父さんの秘書からのメールと電話による連絡により、その翌週の金曜日に会うことになった。

具体的にどんなビジネスを持ちかけられるのか。
そこには不安はない。
僕はこの安曇野の地で頑張ってきた努力の賜物である品質の良いりんごがあるのだから。
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