赤い流れ星3
「え…だ、だって、前の日は私が……って、私、ちゃんと言ったよ!
兄さんが二人分の食事代くれたこと……」

「おまえなぁ……昨日は、おまえのために野々村さんに付き合ってもらったんだから、こっちが払うのは当然だろ?
なのに、今日は靴が欲しいからって呼び出して、その上おごらせるなんて……」

兄さんの眉間には深い皺が刻まれてる。



「カズ…そんなに怒らなくても良いじゃない。
野々村さんも靴が欲しかったわけだし、なにもそんな高いお店に行ったわけでもないんでしょ?」

「でもなぁ、アッシュ…
美幸が誘って……」

「美幸ちゃん、野々村さんはどんな靴買ったの?
そういえば、この前の野々村さんはとっても綺麗だったけど、確か、靴はいつもと同じだったよね?
はっきりとは覚えてないけど、いつもと違う靴だったら、ボクが気付かない筈ないもんね。」

アッシュさんは兄さんの言葉をさえぎって、私に助け舟を出してくれた。



「あ、あぁ、野々村さんは今日は気にいるのがみつからなかったんだ。
そういえば、野々村さんってけっこう足が細いんだよ。
だから、合う靴が少ないって言ってた。
それに、サイズも私は24なのに、野々村さんは23なんだ。
身長は野々村さんの方がずっと高いのにね。」

このチャンスを逃してなるものかと、私はわざと明るい声でそう話した。



「はい、お待たせ。」

「あ、ありがとう!」



マイケルさんがココアを持って来てくれたのと入れ違いに、兄さんが黙ってすっと席を立った。
まずい……やっぱりまだ怒ってるんだ。
こじれる前になんとかしときたいけど、でも、どうやって取り繕おう?



「あ、あの、アッシュさん……」

アッシュさんに相談しようとしたちょうどその時、早くも兄さんが戻って来た。
手には財布を握っている。



「美幸、靴はいくらだったんだ?」

「え?」

「必要なものは俺に言えって言ってあるだろ?
いくらだったんだ?」

「え…えっと…1980円。」

「そんな安いのか?」

私が頷くと、兄さんは私の前に一万円札を差し出した。



「おつりがないんだけど……」

「それで今度また野々村さんと食事をして来い。」

「そ、それじゃあ、明日早速行って来ようっと!
野々村さんの靴も見てあげたいし、明日、誘ってみるよ。」

「そんな毎日誘ったら迷惑だろう。」

「もちろん予定を聞いてからだよ。
兄さん、ありがとう!」



や、やった!
最近、毎日みたいに野々村さんと会ってるから、明日も野々村さんと会うっていうのは少し言い出し辛かったんだ。
だから、帰りに本屋に寄ったら野々村さんと会ったとか、また嘘を考えなきゃと思ってた。
だけど、これで口実が出来た!
バンザイだ!
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