赤い流れ星3




「今日は本当にありがとうございました。」

「こちらこそ、どうもありがとう。
また近いうちに会おうな!」

にこやかに手を振るおじいさんに、私はタクシーの中から愛想笑いを浮かべて手を振り返す。




結局、私は何一つおじいさんの重要な情報を知ることは出来なかった。
ただ、ひたすら、美幸さんやご家族のことばかりを話すのみで…



(あぁ…馬鹿みたい…
でも、どうやって探れば良いのかしら…)



小説の中では、賢者のおじいさんについての設定みたいなものはほとんど出て来なかったし、何をどう突っ込めば良いのかまるで思いつかない。



(そもそも、おじいさんを賢者さんと結び付けて考えること自体が的外れな考えなのかも…)



確かに自信はない。
美幸さんが小説の世界に行って、そして戻って来たなんていうことからしてとても信じられない話で、そんなことを考えている私は、もしかしたら自分でも気付かない間に心の病気にでもかかってるのかもしれない。
今まではどれほど信じられないことでも、青木さんが一緒だったからそんなに不安になることもなかったけど、今は私たった一人なんだもの。
私が今の状況をありのままに話したら、きっと誰だって私の頭がおかしいと思うはず。
それほど、ありえないことだし、考えれば考える程、私自身とても怖くなって来る。



帰りのタクシーの中でそんなことを考えてると、私の気分は重く沈んだ。
やめよう…余計なことを考えるのは。
そうでないともたない。
良い案も思い浮かばない以上、おじいさんと会っても何も収穫はないどころか、頭が混乱するだけかもしれないし、関わらない方が良いんだろうか…



(でも……)



おじいさんがあの賢者さんとまるで無関係だとしたら…
じゃあ、なぜ、おじいさんは美幸さんにあんなに強い関心を示すの?
おじいさんが、美幸さんに関心を示してることだけは私の思い過ごしなんかじゃないって自信がある。
物事には、必ず理由や原因があるはず。
そうだ…これからは、おじいさんが賢者さんと関係があるということを証明するんじゃなくて、その原因を探るつもりで様子をみてみよう!
まさかとは思うけど、美幸さんに何かあってからじゃ取り返しが付かないから。
あんな良いおじいさんを疑うなんて、ちょっと胸は痛むけど、これからはそういう方向で考えてみることに決めた。
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